AI研修に使える助成金|人材開発支援助成金の要件と活用の流れ
目次
「全社でAIを使わせたいが、研修コストが読めない」——生成AIの業務活用やAIガバナンス体制づくりを進めたい企業ほど、社員教育の費用が意思決定のボトルネックになりがちです。
結論から言えば、業務に関連するAI研修は、国の「人材開発支援助成金(人材育成支援コース)」の対象になり得ます。中小企業なら訓練経費の最大60%、加えて訓練中の賃金も1時間あたり最大1,000円が助成される可能性があります(令和8年度・後述)。ただし対象になるかどうかは「訓練計画届を事前に出しているか」「10時間以上のOFF-JTか」といった手続き要件で決まり、あとから遡って申請することはできません。
この記事では、AI研修に使える助成金の中心となる人材開発支援助成金について、対象・要件・助成額・申請の流れ・注意点を、厚生労働省の資料に基づいて整理します。数値は令和8年度(2026年度)時点のものであり、制度改正で変わるため、実際の申請前には必ず最新の公募要領と社会保険労務士(社労士)の確認を前提にしてください。
本記事は「AIガバナンス大学」(キュリオシティ株式会社運営)編集部が作成し、監修=松澤直之(ISACA東京支部 基準委員会 委員長/経済産業省 基準審査委員)が内容を確認しています。当校は研修を提供する立場であり、助成金の申請代行は行いません。
AI研修に助成金は使えるのか(結論)
使えます。ポイントは「AI研修だから特別な助成金がある」わけではなく、汎用の職業訓練向け助成金の対象に、業務に関連するAI研修が含まれるという点です。
代表的なのが厚生労働省の人材開発支援助成金です。これは、事業主が雇用する労働者に職務に関連した知識・技能を習得させる訓練を計画に沿って実施した場合に、訓練経費と訓練期間中の賃金の一部を助成する制度です(厚生労働省:人材開発支援助成金)。
生成AIの業務活用、AIリテラシー、AI利用ガイドラインの理解、NIST AI RMFに沿ったAIガバナンス——これらはいずれも「職務に関連した専門的な知識・技能」に該当し得るため、要件を満たせば助成対象になります。
AI研修に使える主な助成金:人材開発支援助成金(人材育成支援コース)
人材開発支援助成金は複数のコースに分かれますが、外部研修やeラーニングを含む一般的な社員研修で使いやすいのが「人材育成支援コース」です。以下、本記事ではこのコースを中心に解説します。
このコースは、10時間以上のOFF-JT(通常の業務を離れて行う集合研修・オンライン研修など)を実施する事業主を支援するものです。AI研修は座学・演習型が多く、OFF-JTとして設計しやすいため相性が良いのが特徴です。
なお、令和8年度(2026年度)は制度改正があり、2026年4月8日付で「中高年齢者実習型訓練(45歳以上向け)」の新設など見直しが行われています。使えるメニューや上限は年度で更新されるため、最新の要領を必ず確認してください(厚生労働省:人材育成支援コース申請書類)。
AIガバナンス体制づくりは一過性ではなく、経営・情シス・人事・法務が横断で継続的に学ぶテーマです。助成金で外部研修の初期コストを抑えつつ、社内の推進体制に投資できる点が、AI研修と助成金を組み合わせる実務上のメリットです。
対象・要件(誰が・どんな研修なら使えるか)
助成を受けるには、「事業主側の要件」と「訓練側の要件」の両方を満たす必要があります。主なものを整理します。
事業主側の主な要件
- 雇用保険の適用事業主であること。
- 訓練を受けるのが雇用保険の被保険者(対象となる労働者)であること。
- 事業内職業能力開発計画を作成し、職業能力開発推進者を選任していること。
- 訓練の実施状況(出勤簿・受講記録など)を書類で証明できること。
訓練(研修)側の主な要件
- 職務に関連する訓練であること(趣味・教養は対象外)。
- OFF-JTで所定の10時間以上の訓練であること。
- 訓練内容・カリキュラム・時間割・費用などを事前に明確化できること。
| 項目 | 要件(人材育成支援コースの例) |
|---|---|
| 訓練形態 | OFF-JT(集合・オンライン・eラーニング等) |
| 最低訓練時間 | 10時間以上 |
| 対象者 | 雇用保険の被保険者 |
| 事前準備 | 事業内職業能力開発計画の作成・職業能力開発推進者の選任 |
| 申請の前提 | 訓練開始前に訓練計画届を提出 |
出典:厚生労働省 人材育成支援コース案内。要件の細目は対象労働者の区分(正規/有期など)や訓練メニューにより異なります。
助成率・助成額(いくら戻るか)
助成は「訓練経費に対する助成」と「訓練中の賃金に対する助成」の2本立てです。ここでは中小企業が正規雇用労働者にAI研修(人材育成訓練)を行うケースを中心に、令和8年度の数値を示します。
経費助成率
| 区分 | 中小企業 | 大企業 |
|---|---|---|
| 通常 | 45% | 30% |
| 訓練後に賃上げを実施した場合 | 60% | 45% |
※有期契約労働者などへの訓練は助成率が高くなる区分があります(中小:通常70%/賃上げ時85%など)。
賃金助成額(1人1時間あたり)
| 区分 | 中小企業 | 大企業 |
|---|---|---|
| 通常 | 800円 | 400円 |
| 賃上げ要件達成時 | 1,000円 | 500円 |
経費助成の限度額(1人1コースあたり・訓練時間区分)
| 訓練時間 | 中小企業 | 大企業 |
|---|---|---|
| 10時間以上100時間未満 | 15万円 | 10万円 |
| 100時間以上200時間未満 | 30万円 | 20万円 |
| 200時間以上 | 50万円 | 30万円 |
出典:厚生労働省 人材開発支援助成金ほか、令和8年度の各種案内。
概算イメージ(あくまで条件次第の目安):中小企業が正規社員5名に20時間のAI研修を実施し、外部研修費が合計30万円だった場合、賃上げ要件を満たせば経費助成は30万円×60%=18万円、賃金助成は1,000円×20時間×5名=10万円で、合わせて約28万円が助成される計算になります(10〜100時間未満の経費助成限度額15万円/人の範囲内)。実際の支給額は審査で確定します。
申請の流れ(計画届 → 実施 → 支給申請)
この制度で最も重要なのは、「研修を始める前」に計画届を出すことです。順序を間違えると、良い研修をしても助成を受けられません。
- 訓練計画届の提出(事前):訓練内容・カリキュラム・対象者などをまとめ、訓練開始日の6か月前から1か月前までに管轄の労働局・ハローワークへ提出します。
- AI研修の実施:計画どおりにOFF-JTを実施し、出勤簿・受講記録・カリキュラム・費用の証憑を残します。
- 支給申請:訓練終了日の翌日から起算して原則2か月以内に、実績を示す書類を添えて支給申請します。
- 労働局の審査 → 支給決定:審査を経て助成額が確定・支給されます。
| フェーズ | 期限の目安 |
|---|---|
| 訓練計画届 | 訓練開始日の6か月前〜1か月前まで |
| 支給申請 | 訓練終了日の翌日から原則2か月以内 |
※期限・様式は年度や労働局の運用で異なる場合があります。着手前に管轄労働局の最新案内を確認してください。
よくある注意点
- 事前の計画届が絶対条件:研修を始めてから「助成金を使いたい」と気づいても遡及できません。AI研修の企画段階で助成金の要否を判断してください。
- 受給は保証されない:支給は労働局の審査次第で、要件を満たしても書類不備などで不支給となることがあります。「必ずもらえる」という前提で予算を組まないことが大切です。
- 数値・制度は改正で変わる:助成率や単価、対象メニューは年度ごとに見直されます(令和8年度も改正あり)。本記事の数値は目安とし、必ず最新の公募要領で確認してください。
- 専門家の確認を推奨:要件判定・書類作成は複雑です。実務では社労士など専門家の確認を前提にすると安全です。
- 当校は申請代行をしません:AIガバナンス大学は研修の提供者であり、助成金申請の代行・可否判断は行いません。申請可否は管轄労働局・社労士にご確認ください。研修カリキュラムが要件(10時間以上のOFF-JT等)に沿うよう設計する相談には対応できます。
よくある質問
Q1. 生成AIの使い方研修やAIガバナンス研修も助成対象になりますか。 業務に関連する職業訓練であれば対象になり得ます。ポイントは「職務との関連性」と「10時間以上のOFF-JT」など形式要件を満たすことです。最終的な対象可否は管轄労働局が判断します。
Q2. オンライン研修やeラーニングでも使えますか。 OFF-JTとして要件を満たすオンライン研修・eラーニングは対象になり得ます。受講記録など、実施を証明できる仕組みが必要です。年度によりeラーニングの経費助成上限が見直されることがあるため最新要領を確認してください。
Q3. 何時間以上の研修が必要ですか。 人材育成支援コースでは10時間以上のOFF-JTが基本要件です。半日単発の研修では届かないことがあるため、カリキュラム設計の段階で時間数を確認しましょう。
Q4. いくらもらえますか。 中小企業なら経費の45〜60%に加え、訓練中賃金が1時間あたり800〜1,000円助成される可能性があります(令和8年度)。経費助成には訓練時間区分ごとの上限(10〜100時間未満で15万円/人など)があります。
Q5. 申請はどこにすればよいですか。 事業所を管轄する都道府県労働局・ハローワークが窓口です。まず訓練開始前に訓練計画届を提出します。書類作成は社労士に相談すると確実です。
まとめ
- 業務に関連するAI研修は、人材開発支援助成金(人材育成支援コース)の対象になり得る。
- 中小企業は経費45〜60%+賃金800〜1,000円/時が助成される可能性がある(令和8年度)。
- 成否を分けるのは「研修前の計画届」。訓練開始日の6か月前〜1か月前までの提出、終了後2か月以内の支給申請が原則。
- 数値・制度は改正で変わるため、最新の公募要領と社労士確認を前提に。当校は申請代行はしないが、要件に沿った研修設計は支援できる。
AIの業務活用とガバナンス体制づくりは、助成金でコストを抑えながら着手できます。まずは「自社のAI研修がどの程度の要件を満たせそうか」を、研修内容の設計から逆算して見立てることが第一歩です。
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監修:松澤 直之(ISACA東京支部 基準委員 委員長)